著者プロフィール
著者プロフィール

武谷健…RGS Professional Guitar School卒業。都内でギター講師として活動しながら、ブルーグラスやカントリーを中心に演奏活動を行っている。ギター講師の他、音楽ライターとしても活動し、様々な音楽雑誌に、ギターの奏法解説やバンド・スコアなどを寄稿している。
現在、フラットピッキング・ギターの解説をした教則本や教則ビデオは、日本ではほとんど発売されておらず、大多数のプレイヤーが音のみを頼りに手探りで練習をしています。私自身、フラットピッキング・ギターを始めた当初は、海外の書籍を取り寄せたり、海外のプレイヤーの動画を穴が開くほど観ながら試行錯誤し、フラットピッキング・ギターのスタイルを身に付けていきました。しかし、フラットピッキング・ギターについて基礎からしっかりと解説してある日本語による教材があれば、もっと効率的に上達出来たのではないかと思っています。向上心のある熱心なプレイヤーは海外から教則本を取り寄せたり、自ら本場アメリカに渡って教えを請うということもあるでしょうが、アコースティック・ギター・ミュージックに少し興味があるという人が、気軽にフラットピッキング・ギターを始めるには、やはり日本語の教材が必要だと感じています。当ブログではそんな日本では知名度が低いですが、とてつもない可能性を秘めたフラットピッキング・ギター奏法を習得してみたい方々のために、プロとしての演奏経験、講師としてのレッスン経験を活かし、フラットピッキング・ギターの弾き方について、いろいろな角度から解説していきたいと思います。
よろしくお願いします。
武谷健
フラットピッキング・ギター基本フォーム編 ②ピッキング
正しくピックを握ることが出来るようになったら、次は実際に弦をピッキングしなければなりませんが、ここでも注意すべき点がいくつかあります。まず、弦に対してのピックの当て方(ピッキングの仕方)によって、トーン・ニュアンスが違ってくることを知っておきましょう。ピックを弦に対して平行に当てる(PIC1)、角度を付けて斜めに当てる(PIC2)など様々なピッキングの仕方がありますが、一般的に弦と平行に当てると、甘い音、弦に対して斜めに当てると、鋭い音になると言われています。このように、ピックの当て方でサウンドはかなり変化するのです。どのようなサウンドでプレイするかはプレイヤーの好みであり、好みのサウンドが出るピックの当て方を個々で研究するのがベストだとは思いますが、ここでは、あえてブルーグラスに適した、ピックの当て方を考えてみようと思います。
PIC1
ピックを弦に対して平行に当てる

PIC2
ピックを弦に対して斜めに当てる

★正しいピックの当て方
フラットピッキング・ギターを弾く場合は、ピックを弦に対して平行に近い角度で当てるのがベターです。ピックを弦に対して平行に当てると、雑味の無いストレートなサウンドでブルーグラス系のジャンルにマッチします。ただ、右手は肘から先が弦に対して角度を付けて入るので(※「右手全体のフォーム」参照)、現実的にはピックを弦に対して完全に平行に当てるのは困難です。(平行に当てるには親指を反らせる(PIC3)、もしくは右手がネックと平行になるように構え(PIC4)なければならない。)ゆえに、実際にピッキングする際は、弦に対して若干の角度を付け斜めに当たりますが(PIC5)、なるべく平行に近い角度で当てるように意識してプレイすると、太く存在感があるフラットピッキング・ギターらしい音が出せるようになります。逆に角度を付けすぎると、エッジの効いた鋭いサウンドとなりやすく、ブルーグラス系のジャンルとはあまりマッチしません。
PIC3
親指を反らせて無理やり平行に

※これは良くない
PIC4
手首を親指側に曲げ右手とネックを平行に

※デヴィッドグリアー風のフォーム。クロスピッキングを多用する場合はこのフォームも選択肢としてあり。
PIC5
実際のピックの向き

フラットピッキング・ギター基本フォーム編 ③ピッキング時のピックの角度の考察
ピッキング時に意識するべき、ピックの角度には2種類あります。
●まず一つ目は、ピックを弦に対して、フラットに当てるか、エッジを立てて当てるかの違いが出るような角度の付け方です。これを「弦に対するピックの角度」と呼び、平行の場合はフラットに当たり、垂直の場合は完全にエッジで弾いているという状態になります。
PIC①フラット

PIC②エッジ

●二つ目は、ピックを寝かせて当てるか、立たせて当てるかの違いですが、これはボディーに対してのピックの角度で検討するとわかりやすいです。ボディーとピックが平行な状態では、ピックは完全に”寝ている”と表現します。ボディーとピックが垂直な状態では、ピックは完全に”立っている”と表現します。このような角度を「ボディーに対するピックの角度」として、一つ目の「弦に対するピックの角度」と区別します。
PIC③寝る

PIC④立つ

★「弦に対するピックの角度」
「弦に対するピックの角度」に関しては「ピッキングの仕方」の中の項目「正しいピックの当て方」で詳細に解説していますので、先に結論を言ってしまうと、”弦とピックがなるべくフラットに接触するように心がけるが、実際はエッジが立ちすぎない程度に斜めに角度を付けて入る。”です。なんとも曖昧な言い方ではありますが、プレイヤーごとに好みの音、目指す音が違う以上、明確な答えはないので、自分好みの角度を研究するしかないということです。ただ、フラットピッキング・ギターらしさを求めるのであれば、弦とピックの角度はなるべくフラットに寄せ、エッジが立たないように気をつけながらピッキングすると良いでしょう。
★「ボディに対するピックの角度」
ボディに対するピックの角度は、右手手首の使い方に関わってくる部分で、しっかりと右手手首のスナップを使ってピッキングする場合には、ある程度”寝かせる”必要があります。初心者にありがちなのが、完全にピックを”立たせて”弾いてしまうことです。これは、恐らく「ギターとはこう弾くものだ」という先入観からくるものであって、しっかりと矯正していくべきところだと思います。正しいピックの軌道は、ボディーに対して若干斜め上から出発して、弦にヒットさせる軌道です。(PIC⑤PIC⑥)右手手首のスナップで弾くと自然とそのような軌道になります。ピッキングがスムーズにいかない人は、腕の上下運動でピッキングしようとする場合が多く、そうするとピックの軌道は理想的な角度からかなりずれてしまいます。本質は、右手首のスナップを使ってピッキングすることなのですが、ピッキングがスムーズに行かない人は、まず「ボディに対するピックの角度」とピックの軌道の2点を意識して練習してみると、上手くフォームが矯正され、スムーズなピッキング・スタイルが確立できると思います。
フラットピッキング・ギター ピッキングの仕方 番外編 「こねり」
「こねり」とは…
ピックを持った親指と人差指の屈伸運動を駆使してピッキングすることを「こねり」と呼びます。
正式名称はないので、便宜的に「こねり」と呼んでいます。
熟練したプレイヤーになると、右手の脱力が完成しているので、ピックを持った親指と人差指の屈伸運動を駆使してピッキングすることが容易になります。この「こねり」ですが、ブルーグラス界の伝説的ギタリスト「トニー・ライス」が常用しているので、フラットピッキング・ギターの必須テクニックのように誤解されることもありますが、実はトニー・ライスが独特なだけであって、初心者にはあまりオススメできるテクニックではありません。というのも、「こねり」を使ったピッキングは、慣れないうちは、アタックが弱くなり易く、同時に音量も稼げないからです。また、初心者が、最初から「こねり」を駆使してピッキングをしてしまうと、手首のスナップを使った最も基本的なピッキングのやり方が養われないので、まずは「こねり」を一切使わずに練習していくことをオススメします。
ただ、この「こねり」を使うことで、弦に対してのピックの角度を自由自在に変化させることが出来るというメリットもあります。ピックの角度を変化させることで、出音のニュアンスが変わるので、より繊細な表現が可能となります。実際、プロのブルーグラス・プレイヤーは要所要所で「こねり」を織り交ぜ、表情豊かなリード・プレイを可能としています。初心者のレベルを脱し、ブルーグラス・ギターの演奏スタイルに慣れてきたらチャレンジしてみても良いでしょう。
PIC1
こねり1→この状態から…

PIC2
こねり2→この状態にすることでダウンピッキングになります。

※逆パターン、こねり2→こねり1でアップピッキングになります。
フラットピッキングギター基本フォーム編④ 右手全体のフォーム
■右手全体のフォーム
正しい持ち方でピックを持ったとしても、右手全体のフォーム(右手の構え方)が正しくなければ、弦とピックは理想的な角度で接触しませんし、余計な力が入り右手はスムーズに動きません。ピックを持ち実際に右手を構える際には、以下の3つのポイントに注意してください。まず1つ目は、右腕の侵入角度です。これは体の大きさや腕の長さによって多少の個人差はありますが、だいたいの目安というものがあります。2つ目は、手首の角度です。手首の角度というのは、手首をどの方向にどの程度曲げるかという問題です。3つ目は、支点です。ピッキングをする際に、右手を固定するポイントのことを支点を言います。支点は手首の付け根で取る場合と、右手の指で取る場合がありますが、加えて支点を取らない弾き方もあります。以上の3つのポイントを詳細に見ていきましょう。
★正しい右手全体のフォーム
●1つ目のポイント、右腕の侵入角度ですが、これは写真で見たほうが早いでしょう。右腕の侵入角度はPic1のようになります。
Pic1
右手全体のフォーム

Pic1のように、右腕はボディーに対して斜めに角度をつけて入ります。座って構える場合は、まずしっかりと背筋を伸ばし、その次に右腕肘付近をボディーに乗せます。その間、右肩の位置は変わらず、右腕はただ単純にボディーに乗るだけというのがポイントです。右肩は自然と力の抜けた状態で、弾いている時も上下しません。フラットピッキング・ギターの場合は、弦と右腕の角度がつき過ぎないように注意して構えるのが大切です。弦と右腕の角度は平行まではいきませんが、右肩に余計な力が入らず、力を抜いて構えられる範囲で、平行に近くなるように意識して構えるのがポイントです。
●2つ目のポイント右手の手首の角度ですが、フラットピッキング・ギターにおいては肘から先が一直線になるように構えます。(他の章で詳細に解説しますが、ピッキングは右手手首のスナップによって行うので、ピッキングの動作時には、若干内側に曲がることがあります。)
Pic2

Pic2のように、肘から先が一直線のフォームがフラットピッキング・ギターの特徴です。右腕のストロークでしっかりリズム・キープをしながら弾くのがフラットピッキング・ギターのスタイルなのですが、このフォームはそのような弾き方に最も適しています。逆に、Pic3,4のように手首が不自然に曲がっているフォームは望ましくありません。このようなフォームでは、手首のスナップを使ったピックングがし辛くなります。
Pic3
右手全体のフォームNG1(手首が小指側に曲がる)

Pic4
右手全体のフォームNG2(手の甲が上に上がる)

●3つ目のポイント支点の取り方ですが、支点の取り方に関わるフォームには3種類あります。(1)手首の付け根を支点とする場合と、(2)右手の指を支点とする場合、そして(3)支点を取らない場合の3種類です。
それぞれの、スタイルの利点と欠点を見ていきましょう。
(1)手首の付け根
ブリッジ付近に置いた手首の付け根を支点とするフォーム。支点の面積が大きいので、しっかりと固定され力強いピッキングがしやすい反面、各弦に当たるピックの角度を揃えにくいという欠点があります。
Pic5
支点①ブリッジ付近に手首固定

(2)右手の指
ピック・ガードに置いた、薬指と小指、もしくはそのどちらかを支点とするフォーム。各弦においてピックの角度にばらつきが出にくく、出音のバランスを揃えやすい反面、弦のミュートに不向きで、バッキングからリードへの移行もし辛いです。
Pic6
支点②ピックガードに小指(もしくは小指と薬指)を固定

(3)支点を取らない
特定の支点を作らないフォーム。バッキングとリードでフォームの切り替えがなく、スムーズなプレイが可能となる反面、支点がないので、弦間の間隔をほとんど感覚的に捉えるしかなく、安定したプレイをするにはそれなりの修練が必要になってきます
Pic7
支点③支点無し

3種類の支点の取り方に関わるフォームを見て来ましたが、結論を言うと、支点を取らないやり方が万能型のピッキング・スタイルで、フラットピッキング・ギターを真に極めようと思うなら、支点を取らないピッキング・スタイルを習得する必要があります。しかし、このピッキング・スタイルは、恐らくフラットピッキング・ギターの最も特徴的な部分で、他ジャンルでこのような弾き方をするギタリストはかなり少ないです。よって、他ジャンルを中心に演奏してきたギタリストには、非常にハードルの高いピッキング・スタイルと言わざるを得ません。ブルーグラス以外のジャンルからギターを学び始めたプレイヤーは、そのほとんどが(1)か(2)のやり方で演奏してきたことだと思いますが、そのような方達は、まず支点にかける力を少しずつ抜くことから始めてみてください。要するに、今まで支点にしていた部分に右手は触れてはいるが、力がかかっていないので、その部分で「支えている」ということにはならないという状態をまず目指してください。それが達成できれば、徐々に支点のない状態で弾くことにチャレンジしていけば、(3)のピッキング・スタイルを習得できるでしょう。
※(3)のピッキング・スタイルですが、支点を取らないといっても、右手はボディーに若干触れながら弾いている場合が多いです。ボディーに触れてはいるが、そこを支点としていないのです。実際にYOUTUBEなどで、プロの演奏動画を良く観てみると分かりますが、実はほとんどにプレイヤーが軽くボディにタッチしながら弾いています。しかし、支点を作って右手を支えながら弾いているプレイヤーはほとんどいません。支点を作るというのは一箇所に右手を固定しながら弾くことであり、右手がボディーに触れているかどうかは問題ではないということです。
右手全体のフォーム 番外編 支点を取らないピッキング・スタイル
支点を取らないピッキング・スタイルを深堀していきましょう。支点を取らないピッキング・スタイルを練習していくと、次のような問題にぶつかります。「右手の人差し指と親指はピックを持つことに使っているが、その他の中、薬、小指はどういう状態にあれば良いのか?」という問題です。これまた、大きく2種類の方法に分かれます。全ての指を握りこむ「グー型」と、中、薬、小指を力を抜いた自然な状態で維持する「パー型」の2種類です。
グー型

デヴィッド・グリアーなどに代表されるフォームです。
指を握りこんでいる分、ピックに対して手首と5本の指の重さをダイレクトに伝えることが出来、力強いピッキングが可能となります。また、右手全体の稼動範囲が広いためクロス・ピッキングに非常に適したフォームであるといえます。クロス・ピッキングを中心にプレイを組み立てるデヴィッド・グリアにぴったりのフォームです。デヴィッド・グリアのように、ブルーグラス・ソロ・ギターを極めたいというプレイヤーにお勧めのフォームです。
パー型

ブライアン・サットンなど代表されるフォームです。
指を握りこんでいない分、ピックを持っている親指と人差し指が自由となり、「こねり」(※他章で詳しく解説しています。)を使いやすくなります。「こねり」を使って弾ける分、出音に様々なニュアンスを付けて弾きやすくなりますし、単音フレーズをスピーディーに弾きやすくなります。単音での速弾きや、ピッキングのニュアンスで聴かせるタイプのブライアン・サットンらしいフォームです。ブライアン・サットンのように、スピーディーな単音を中心としたアドリブを極めたいというプレイヤーにお勧めのフォームです。
ブルーグラスでソロギターをピックで弾くことのメリット(演奏例:Banks of the Ohio)
ブルーグラス系ソロ・ギターでは、指は使わずピックのみで演奏するスタイル(フラットピッキング・ギター)が一般的です。
多くの場合、弾きやすさを重視してオープン・コードを駆使してアレンジされます。(KeyはG、C、Dがほとんど)また、指弾きによるソロ・ギターとも共通しますが、コード感を出すために単音だけでなく複音を用いたプレイを随所に配置します。
ブルーグラス曲でソロ・ギターを弾く場合、単音でのメロディー・ラインに対して、複音の挿入はリズミカルな右手の反復動作に合わせてある程度ランダムに入れるのが特徴です。右手の振りでリズムを取りながら弾くので、メロディーの合間に複音(またはコード)を入れるほうが弾きやすくなるのです。
このようなプレイスタイルでは、メロディーの演奏が可能な範囲で、出来る限りコード・フォームを維持する弾き方をすることがポイントです。クロス・ピッキングなどを用いながら、目立たせたいメロディー部分などは強く、その他の箇所(コード感を演出したり、リズムを出す為に弾く部分)は弱くピッキングします。
繊細なピッキング・コントロールが要求されるプレイスタイルですが、個人的には、指弾きによるソロ・ギターよりも、はっきりとしたサウンドで、透き通った印象を与えることが出来る手法だと思っています。
このプレイスタイルで試しに演奏してみた動画をアップします。
Banks of the Ohio / バンクス オブ オハイオ (Acoustic Guitar)
ブルーグラス系ミュージシャンのみならず、カントリー系ミュージシャンも好んでプレイする、トラディショナル・ソングです。この曲は、悲劇的な歌詞が印象的なバラード曲(歌モノ)ですが、クラレンス・ホワイトのアレンジを参考にソロ・ギターで弾いてみました。典型的な、フラットピッキングを用いた、ブルーグラス系ソロ・ギターアレンジになっています。